ユーフォニアム
ユーフォニアムについて - はじめに
(1999.09.24更新)
「ユーフォニアム」、といわれてどんな楽器であるかわかる人は、クラシック音楽関係者を除けばほとんどいないだろう。もしかしたら、アマチュア・オーケストラの人でも、わからない人がいるかもしれない。それぐらいマイナーな楽器である。私が友人達から「何ていう楽器やってるの?」と聞かれた時、まず、「ユーフォニアムなんて知らないよね。」と言う。当然相手は知らない。そこで、「かたつむり(ホルン)を縦に伸ばして、2まわり大きくした楽器。」と説明する。が、相手はわかったようなわからないような顔をする。だが、表現力の乏しい私にはこれ以上の説明は不可能だ。あとは本人の金管楽器に関する知識を引き出して、形を作ってもらうしかない。
マイナーな楽器であるにもかかわらず、中学・高校でこの楽器にハマる人は多く、どこの市民バンドにもユーフォニアムは足りている。それどころか余っているくらいだ。しかし、余ったから他のところへ行こう、と思っても吹奏楽団やブラスバンド以外の需要はまずない。だからさらに余る。でもユーフォニアム人口は着実に増えていると思う。奏者にとってはこの楽器は非常にすばらしい楽器なのだ。聴衆にとってはどうかというと、聴衆はこの楽器を知らないのだ。だから、この楽器がどんな音色でどんなことをやっているのか、ましてそれが素晴らしいかどうか、などという事はわかるわけがないのだ。
この文章は、そんなマイナーな楽器をやっている人たちを少しでも救うため、また、その周りの人たちにこの楽器を認知してもらうために精一杯書き上げた。効力のほどはわからないが・・・
最後に、ある編曲家の言葉を借りると、「この楽器は『ユーフォ』であって『UFO(未確認飛行物体)』ではないのだ!」
※“EUPHONIUM”という単語を『外来語の表記』(平成3年6月28日付内閣告示第二号)によってカタカナ表記すると「ユーフォニウム」となり、メーカーもこれに従っているが、音楽家のほとんどが「ユーフォニアム」と言っているうえ、筆者も後者の方が好きなため、これ以降本文では「ユーフォニアム」に統一してあることをご了承願いたい。
1 ユーフォニアムの歴史
ユーフォニアムは、楽器分類学上では・サクソルンのバス楽器
・テューバ族のテノール楽器
という2種類の解釈があり、前者はフランスや日本で、後者はドイツなどで使われているが、資料の都合上本文では前者として扱う。(後者についての詳しい解説は英語、ドイツ語圏の各種音楽大辞典を参照して頂きたい)しかし、サクソルン族そのものの解釈も国や地域によって著しい混乱が生じているため、以下も日本での一般的な解釈にすぎない。
アドルフ・サックスという発明家を知っているだろうか。名前からもわかるだろうが、あの有名なサクソフォーン、通称「サックス」の発明家である。彼は1814年ベルギーの楽器発明家の下に生まれ、1842年パリで工房を開き、そして1894年2月4日に没した。彼の主たる発明品には、サクソトロンバ(1845年特許取得)、サクソフォーン(1846年特許取得)などがあり、また、バス・クラリネットをはじめ数々の楽器の改良も行った。
サクソルンは、彼が「管弦楽におけるヴァイオリン族のような楽器を吹奏楽においても作れないだろうか」という目的で1840年代に考案し、1845年に特許を取得したリップ・リードの有弁金管楽器の一族であり、大別して7ないし8つの楽器(一般的でない特殊楽器は除く)からなっている。この楽器族は管長の割に極めて太い円錐管を持っており、またマウスピースのショルダー部分(内面の肩の部分)もいわゆるなで肩になっている。そのために他の楽器族の同音律の物に比べて倍音を含みやすく、複雑で深い音色を発することができる。(しかしこれが電子楽器でこの楽器族の音をなかなか真似できない最も大きな理由であるが。)管の巻き方は様々で、トランペットのように横長に巻いて正面にベルを向けるタイプ、縦長に巻いて上方にベルを向けるタイプ、録音のためにそのベルだけを正面に曲げたタイプ、さらにはマーチングのために楽器を肩に乗せて吹き込み管の位置を変えたタイプなどがある。常用音域は3弁のもので第2から第8倍音程度、4弁以上を有するものでは基音(ペダル音)も使える。また、管径が大きくなるにつれ、発音そのものは抵抗が増すが他の音域と比較して低音域の演奏が楽になり、またさらに音色が深くなる。そのために同音律の楽器でありながら、バリトンとバスは区別されている。(バスの方が管が太い。)
サクソルン族はその機能性からヨーロッパ中へ輸出されるようになり、中でもバス・サクソルンはその過程で、その柔らかみのある深い音色のため、ラテン語の「快い音、歌」を意味する「euphonia」を語源とした「euphonium」と呼ばれるようになった。また、そうした過程で数々の楽器製作者がサクソルンの、とりわけユーフォニアムの改良にとりかかり、1874年にはイギリスのブージー&ホークス社のデイヴィッド・ブレークリーが「コンペンセイティング・システム(自動補正ヴァルヴ方式)」を開発した。この方式では第4弁と他の弁を同時に押すとそれぞれのヴァルヴについた補正管にも空気が流れ、つまり標準のB♭管の楽器はそれより完全4度低いF管とほぼ同等の機能も備えることになり、そのためペダル音でも正確な音程で奏することができるようになった。このことで楽器の機能性は格段に上がり、世界中でますます改良を重ねることになった。現在もその勢いは衰えることを知らない。
この「ユーフォニアム」という楽器は日本には幕末の1869年(明治2年)に初めて輸入され、薩摩藩士である尾崎平次郎惟徳が日本人として初めてこの楽器を吹いた。昭和30年代になると音楽大学にもユーフォニアム専攻(当時はバリトン専攻と呼ばれた)が設けられるようになり、また国産のユーフォニアムも登場することとなった。
このように非常に新しい楽器であるため、非常にレパートリーが少なく、一般的な管弦楽の編成には含まれていないが、近年は世界中でこの楽器のために数多くの曲が書かれ、その増える割合はサクソフォーンと並んで他のどの楽器よりも多くなっている。そしてまた、そのことがユーフォニアム人口の増加とレベルの向上に拍車をかけ、相乗効果を上げていると言えよう。この楽器の未来は前途洋々である。
2 ユーフォニアムの活躍する曲
下記にこの素晴らしい楽器が持っているレパートリーの中からごく一部を、筆者本人の独断と偏見で記す。気に入らなければYahooの検索ページへ戻ってもらって一向に構わない。音楽評論に絶対などというものは絶対に存在しないからである。もし読んでもらえる場合にも、これ以外の意見も参考にし、最後は必ず自分自身の耳で確かめ、それを持ってはじめて判断することが大切である。
- 独奏曲・協奏曲
- シンフォニック・ヴァリアンツ (James Curnow)
- ユーフォニアムとピアノのためのファンタジー(保科 洋)
- ブルーレイクの幻想 (David R.Gillingham)
- 2声のインヴェンション (Philip Sparke)
- パントマイム (Philip Sparke)
- ボール・オブ・ファイアー (Peter Smalley)
- 吹奏楽曲
- そよ風のマーチ(松尾 善雄)
- たなばた(酒井 格)
- 吹奏楽組曲第1番変ホ長調、第2番へ長調 (Gustav Theodore Holst)
- オリエント急行 (Philip Sparke)
- カンタベリー・コラール (Jan van der Roost)
- マーキュリー (Jan van der Roost)
- アルヴァマー序曲 (James Barnes)
- アヴェンチューラ (James Swearingen)
- エル・カミーノ・レアル (Alfred Reed)
- バンドのための民話 (Jim Andy Caudil)
他、大多数の吹奏楽曲
- 管弦楽曲(バリトン、テナー・ホルン、テナー・テューバのものも含む)
- 組曲「惑星」 (Gustav Theodore Holst)
- 交響曲第7番「夜の歌」 (Gustav Mahler)
- 組曲「展覧会の絵」 (Modest Mussorgsky/Maurice Joseph Ravel編曲)
- 交響詩「英雄の生涯」 (Richard Strauss)
- 交響詩「ドン・キホーテ」 (Richard Strauss)
- 他ジャンルからユーフォニアム独奏へのアレンジ曲(筆者の好きな曲)
- 赤とんぼ(山田 耕筰)
- 浜辺の歌(成田 為三)
- 歌劇「クセルクセス」より オンブラ・マイ・フ (Georg Friedrich Handel)
- ホフマンの舟歌 (Jacques Offenbach)
- ヴェニスの謝肉祭による変奏曲 (Julius Benedict/Joseph B.Arban作曲)
- ロンドンデリーの歌 (TRADITIONAL)
- グリーンスリーヴス (TRADITIONAL)
- いつか王子様が (L.Harline)
- 星に願いを (F.Churchill)
- ケンタッキーの我が家 (Stephen Collins Foster)
- マイ・ウェイ (C.Francois)
- サムシング (George Harrison)
- トリステーザ (Haroldo Lobo)
※アレンジについては賛否両論あると思うが、どんな曲でも普通の編曲家が吹奏楽に編曲すれば大抵ユーフォニアムは主旋律か対旋律を受け持つので、むしろ活躍しない曲の方が少ない。